「炎と水」中島みゆき|二極があることで保たれる世界

読書日記

炎と水は、大学生の時にリアルタイムで聞いていました。

今になって、炎と水の歌詞はこの世界の在り方をうたっているように感じています。

恋愛の歌としては壮大すぎる

「炎と水」の世界観は、とにかく壮大です。

壮大すぎて、とても恋愛の歌とは思えません。

  Flame & Aqua あなたは一途な水
  私たちの行方を指し示す者
  Flame & Aqua 私は揺れる炎
  私たちの行方を照らし出す者
  Flame & Aqua 求めずにはいられない
  私たちは
  あまりにひとりでは担い過ぎる炎と水

中島みゆき「炎と水」1991.10.23

私見ではありますが、この曲は、恋愛の歌ではなく、

世界の対極にある思想や主義の関係性、そしてそれらを担うもののあり方を歌っているのだと思います。

東西冷戦終結|世界の二極の均衡が崩れたとき

この「炎と水」がつくられたのは、1991年10月、世界の構造が大きく変わった時期でした。

1989年、東西分断の象徴であったベルリンの壁をドイツ市民が自ら打ちこわしたことをきっかけに、アメリカとソビエト連邦(ソ連:現在のロシア)の首脳会談「マルタ会談」を以て、東西冷戦が終結したのです。

当時の両国のトップ、アメリカのブッシュ大統領とソ連のゴルバチョフ書記長の言葉は次のようなものでした。

世界は一つの時代を克服し、新たな時代へ向かっている。我々は長く、平和に満ちた時代を歩き始めた。武力の脅威、不信、心理的・イデオロギー的な闘争は、もはや過去のものになった。
私はアメリカ合衆国大統領に対して、アメリカ合衆国と戦端を開くことはもはやないと保証する。

ミハイル・ゴルバチョフ、ソビエト共産党書記長

wikipedia「マルタ会談」より 2023.2.7参照

あなたは炎の大地を歩き 途切れた未来へ注ぎ込む者
けれども情の深さのあまり 己を癒せず凍えゆく者

中島みゆき「炎と水」1991.10.23

そして、

我々は永続的な平和と、東西関係が持続的な共同関係になることを実現することができる。これはマルタで、ゴルバチョフ議長と私がまさに始めようとする未来の姿だ。

 ジョージ・H・W・ブッシュ、アメリカ合衆国大統領

wikipedia「マルタ会談」より 2023.2.7参照

私は凍った大地を歩き 凍てつく昨日を暖める者
けれども思いの熱さのあまり 己を癒せず身を焦がす者

中島みゆき「炎と水」1991.10.23

と、どちらが炎でどちらが水なのかはさておき、こんな感じです。

(私としては、東側(ソ連)が水で、西側(アメリカ)が炎かなと、勝手に思っています)

で、

  Flame & Aqua なんて遠い者たち
  私たちは互いに誰より遠い
  Flame & Aqua なんて同じ者たち
  いちばん遠い者がいちばん近いの

中島みゆき「炎と水」1991.10.23

となっていくわけです。

もちろん、東西冷戦は、世界を2つに分けるものの一例です。

ソビエト連邦の解体|対になるものの喪失

この会談の後、共産主義国では次々に政権が倒されていきます。

そして、1991年12月にはゴルバチョフ大統領が辞任して、ソビエト連邦も解体されてしまいました。

アメリカ的なものを癒せるすべを持っているものを、世界は失ってしまったのです。

あなたがあなたになればなるほど
私が私になればなるほど
互いは互いが必要になる 誰から教えられることもなく

中島みゆき「炎と水」1991.10.23

ソ連崩壊後も、まるで、民主主義や資本主義の対になるものを探しているかのように戦争や紛争は絶え間なく起こりました。

ソ連的なものに対して癒せるすべを使うのでなく、傷つけ潰すという道を選んだのです。

癒せるすべを持っていることを知らないのですから、傷つけることしかできなかったのでしょう。

私はあなたを傷つける者 誰よりあなたを傷つける者
けれども唯一癒せるすべを それとは知らずに持っている者

中島みゆき「炎と水」1991.10.23

再び未来を指し示すもの

ベルリンの壁が壊され、東西冷戦が終結した年、「これから、きっと世界はよくなっていく」という漠然とした期待を持っていました。

あれから、30年以上が過ぎて、ロシアは自分の体の一部でもあるようなウクライナとの戦争をしています。

どこで間違って、ここまで来てしまったのか。自分が持っている相手を傷つける力ではなく、癒せるすべに着目していれば違ったのかなと、悲しい気持ちになります。

日本はアメリカに従属している要素が大きいのでロシア的なものである中国を敵対視しがちですが、中国の台頭はアメリカ的なものとの均衡が再び保たれる、つまり、途切れた未来へ注ぎ込む水の役割の復活なのかもしれません。


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