「ある継母のメルヘン」Spice&Kitty|ストーリーと考察

読書日記

転生系やタイムリープ系のマンガは現実逃避したいときにピッタリなので、無料のものをよく読んでいました。

「ある継母のメルヘン」もタイムリープ系の物語ですが、かなり奥が深く、何度か読まないと伏線回収が理解できないので、課金してアップされている分は全話購入してしまいました。

タイムリープによって、主人公シュリーが幸せになるだけでなく、隣国との友好関係も深まり、4人の子どもたちや周りの人々の人生も豊かになるなど、細部までしっかり描かれていて読みごたえがあります。

ネタバレサイトなどで集めた情報も元に、今後の展開の推測を含めながら考察していきたいと思います。(ネタバレあり緑字が2024.2.15時点での予測です。間違っていたらごめんなさい。)

※絵も素敵なので、ぜひピッコマで、「待てば¥0」分だけでも読んでみてください。

物語の設定

小子爵という辛うじて貴族である家に生まれたシュリーは、親子ほど年の離れたノイヴァンシュタイン侯爵(ヨハネス)に見初められ、14~15歳ごろから当主としての教育を受けます。形だけの妻、4人の子の義母となったシュリーは、結婚して間もなく16歳で未亡人となります。悪女の汚名を着せられながらも、ヨハネスとの約束通り懸命に家門を守り抜きますが、長男ジェレミーの結婚式の日にシュリーは教皇庁の策略により惨殺されてしまいます。

前編と後編の間にあるエピローグで、回帰前のシュリーの死が隣国サファヴィーとの戦争の引き金になり、カイザーライヒ大帝国に大きな悲劇が訪れたことが示唆されています。

お許しください シュリー・フォン・ノイヴァンシュタイン

あなたが生前に愛したすべての者が

悲劇的な終局を免れないでしょう

ある継母のメルヘン 第63話 エピローグ7.ある童話の結末(8)ノラの心の声

ノラ・フォン・ニュルンベルは、タイムリープ前には、シュリーと一度、短い言葉を交わしただけなのでシュリーはノラを知りません。しかし、ノラは皇帝直営の裏組織ストライフェ隊でシュリーの監視役を担っていたことで、ノイヴァンシュタインの家門と子ども達を守るために力を尽くすシュリーを見て想いを寄せるようになっていました。

偽りで覆われたこの地を生贄にして ただ あなたのためだけに祈るとしたら

あなたは戻ってきてくれるだろうか

ある継母のメルヘン 第64話 エピローグ7.ある童話の結末(8)ノラの心の声

この言葉と前後して、ノラとリシュリュー枢機卿、そして、絞首刑台のカットが入ります。

タイムリープのキッカケを作ったのは、この2人のいずれかだと考えられます。

物語の世界観

「ある継母のメルヘン」の世界には、2つの大きな火種があります。

皇室を支える二大家門VS皇太子を取り込む教皇庁|国内の勢力

カイザーライヒ大帝国には皇室を支える2つの家門があり、皇室への反逆を狙う教皇庁を中心とした勢力があります。

  • 「騎士の誇りと武力の象徴」ニュルンベル家
  • 莫大な財産を持つ「黄金の獅子」ノイヴァンシュタイン

テオバルト皇太子は、支えてもらうはずの二大家門の次期当主であるジェレミーとノラを陥れる行動を度々とり、教皇庁と近しい関係になっていきます。

エリザベート現皇后は、教皇庁によるクーデター「聖戦」を予言しています。

でもアルブレヒト お前も気づいているでしょう

内側から腐りつつあるこの国を いつ戦乱の幕が切って落とされてもおかしくはないわ

ある継母のメルヘン 第35話 生誕祭(2) エリザベート現皇后の言葉

隣国のサファヴィーとの戦争の火種|国外の状況

カイザーライヒ大帝国と隣国のサファヴィーのは物語が始まる以前に戦争をしています。帝国側が勝利したものの、勝利した帝国側はサファヴィーの文化を理解する必要性を感じていません。一方、サファヴィー側はカイザーライヒ大帝国について多くの情報を得る努力をしています。

そして、偵察に訪れていた、ハリメ王女は、次に戦争があればサファヴィーが勝利すると分析します。

カイザーライヒは衰退した 帝国が再び戦いを仕掛けてきたら 勝算はサファヴィーにある

ある継母のメルヘン 第37話 生誕祭(4)ハリメ女王の言葉

帝国の軍事力は、自覚せずして弱体化している状態だと考えられます。

タイムリープ前

ヨハネスは自らが病に侵されていることを知り、長男ジェレミーが侯爵家の当主になるまでのつなぎの期間を切り盛りさせるためにシュリーを妻として迎え入れました。シュリーが当主教育を受け終わったころヨハネスが亡くなったことで、「父との時間を奪ったニセモノの母」として4人の子どもたちはシュリーをいじめます。

しかし、長い月日の中で4人の子どもたちは徐々にシュリーに心を開いていきます。言動がすれ違ったまま、明日和解しようと子どもたちが決めたその日の早朝に、一刻も早く婚約者ジェレミーからシュリーを引き離したいオハラの嘘によりシュリーは別荘に旅立ってしまいます。その道すがら、子どもたちが自分に心を開いていると知る間もなく、惨殺されてしまったのです。

人はいつだって後になってから 魂の去った体を抱きしめて過ぎた日々を惜しんだり 敬意を表しながら涙を浮かべる

なぜ その時になって ようやく死者を恋しがるんだろうな

今となっては ただ 腐りゆく肉の塊に過ぎないというのに

ある継母のメルヘン 第62話 エピローグ6.ある童話の結末(7)ノラの言葉

タイムリープ後の変化

ノイヴァンシュタイン家のわだかまりが溶ける

突然、母親になった回帰前に比べ、4人の子どもに接するシュリーには余裕があります。ノイヴァンシュタイン家を乗っ取ることを画策していた親戚と使用人を追い出すことで、すれ違いはなくなります。

家族の仲の良さは、義母シュリーと息子ジェレミーの恋愛というあらぬ噂をもたらします。疎外感を感じたエリアスが、仲間に誘われて賭博場に出入りするキッカケにもなりました。

最終的にシュリーはノラと結婚してノイヴァンシュタイン家を離れます。当主の重圧から解放され、ノラと暮らすことで、シュリーの夢遊病は緩解します。

ジェレミーも婚約者であるオハラとは正反対な女性、騎士団副団長のエヴァレットと結ばれます。ライヒ家の血が流れるジェレミーと女性騎士エヴァレットの間には、燃えるような赤い髪の女の子が生まれます。没落したライヒ家が復活する伏線を残して物語は終わります。

ニュルンベル家の親子関係が改善に向かう

幼いころテオバルト皇太子の罪をかぶったノラが心を閉ざし、父もノラに対して厳しく冷たく当たるようになったことで、親子関係は修復不可能なほどにこじれていました。回帰後のシュリーがノラとかかわることで、ノラの母が変わり、父とも終盤になってようやく軌道修正の兆しが見えます。

シュリーはノラを高く評価し、ノラも要所要所でシュリーを支えています。

ジェレミーとノラが親友になる

回帰前はジェレミーもノラも心を開ける友人がいませんでした。息子とのこじれた関係に悩んだニュルンベルン婦人から依頼されたシュリーがノラと話をする中で、ノラとジェレミーとの距離が近くなります。

回帰前もお互いに唯一のライバルと認め合っていましたが、シュリーの回帰後のジェレミーとノラは親友になります。帝国にとって、二大家門の次期当主が結束できたことは大きな利益になったことでしょう。

エリアスとオハラが「貴族」の鎖から抜け出す

次男エリアスがギャンブルから抜け出せなくなり、エリアスの観察力・文章力は優れているため、小説家やジャーナリストとして活躍するのではないかと思います。エリアスは父の罪により平民となったオハラと結ばれ、貴族という鎖をほどいて幸せに暮らします。帝国に民主化の波が押し寄せた際に、2人は重要なキーパーソンとなっていくことでしょう。

エリアスは貴族であることを息苦しく感じ、兄ジェレミーに対する劣等感に悩まされていました。オハラは、浮気を繰り返す父に苦しめられた母の遺言「恋をしてはならない」を守り、貴族のとしての政略結婚を是とします。

ジェレミーの婚約者であり、回帰前のシュリーと子どもたちの和解を阻害したオハラですが、エリアスの前では素の姿になることができ、貴族の鎧を脱ぐことができていたようです。

隣国サファヴィー王国との友好関係を築く

シュリーが子供たちに贈る生誕祭のプレゼントの準備のために街に出たところで、サファヴィー王国のハリメ王女と懇意になります。さらに、長女レイチェルがサファヴィー王国のアリ王子と恋に落ち、サファヴィー王国に嫁ぐことで両国の関係はゆるぎないものになるのです。アリ王子と三男レオンも、率直な意見交換ができる友人になります。

貿易も盛んになって国同士の理解も深まったことが示されており、回帰前、シュリーの死後に起きた戦争は回避できたと考えられます。

テオバルト皇太子が失脚 レトゥランが次期皇帝となる

稚拙な策略をめぐらして亡き母に似ているシュリーを手に入れようとするテオバルト皇太子ですが、教皇庁と手を組んだ賭博場が失敗した後も、シュリ―への執着とノラへの敵対心から、暗殺や拉致を企てます。皇帝にふさわしくないと判断され失脚します。早くに母を失い、皇太子として崇め奉られてしまったテオバルトは、陰湿なリシュリー枢機卿の教育を受けており、このような人格になったと思うと、少しかわいそうです。

テオバルト失脚後に皇太子となるレトゥランは、終始、薄ぼんやりしているという印象で描かれています。しかし、剣術大会で父親である皇帝に、目を向けてもらった喜びから、真面目に剣術を学ぶようになります。父の眼差しを受けたレトゥランの心から嬉しそうな表情は、幼いころ「お前を誇りに思うよ」と父・ヨハネスに認められたジェレミーと同じです。

ぼ…僕も…いつか試合に参加することが…できるかもしれません 僕に…父上に似た部分があれば… (中略)

も…もちろんです父上 一生懸命 頑張ります

112話2部47話 軌道(6)レトゥランから父への言葉

レトゥランを二大家門が支え、特に同年代のレオンが友人としてもサポートしていくのではないかと思います。

慣習にとらわれない柔軟な思考が 父様の素晴らしい手腕の秘訣だってみんなが言ってた

僕も父様みたいに すごい人になりたいんだ

ある継母のメルヘン 第86話 2部21話近づく影(2) レオンの言葉

…ねえ レイチェル 信念て何かな

目の前の利益に執着することなく 自身が選んだ道を確信をもって進む そんな熱望を抱く日が 僕にも来るかなぁ 

112話2部47話 軌道(6)レオンがレイチェルに語った言葉

レオンの物語はあまり多く描かれていませんが、イヴァンシュタイン家だけでなくカイザーライヒ大帝国を支えていく人材になったことが推測されます。


残された謎

ある継母のメルヘンには、たくさんの伏線があり、回収されているのか、されていないのか読み込めていないものも多くあります。大きな謎は、リシュリュー枢機卿とヨハネスの人物像、そして、複数の女性たちの体調不良の原因です。

次回はこの謎について考えたいと思います。

強制ではなく自分自身で選び取る

シュリーの二度目の子育てでは、見習いたい言葉がたくさんあります。

でも過去の記憶で判断して 今のその子自身を見失ってしまうという過ちを 私もまたおかしてしまっていたのかもしれない

もっと多くの瞬間があったはずなのに どうして私たちは 互いの後ろ姿しか 思い出せないのだろうか

ある継母のメルヘン 89話 狩猟祭(1)シュリーの心の声

私は子供たちが… 愛のない政略結婚の犠牲になることは望んでいません

ある継母のメルヘン 91話 2部26話 狩猟債(3)オハラに向けたシュリーの言葉

登場人物一人ひとりが、強制されるのではなく自分自身で「ここから先」を選びとっていくことが、平和につながっていることを感じられる、後味のよい物語でした。

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