「吹雪」中島みゆき|タブーとしたものに殺される

読書日記

「どこにも残らぬ島」の出身であるだろう人の視点でかかれている、不気味さのある曲です。

核による災禍と人間の愚かさがテーマ

発売翌年の1989年のコンサートで、中島みゆきさん自身が、

1954年アメリカ軍ビキニ島で行った水爆実験で被ばくした)第五福竜丸

1989年に1号機が運転開始した)泊原発(北海道)の反対運動がモチーフだと話しているそうです。

第五福竜丸には、核実験による死の灰が降り積もり、乗組員は急性の被ばく症状を呈しました。

また、原発のある泊は、日本海側であり、太平洋側では想像できないような吹雪に見舞われる地域です。

第五福竜丸事件から34年経った1989年、泊原発は運転開始します。

日に日に強まる吹雪は なお強まるかもしれない
日に日に深まる暗闇  なお深まるかもしれない
日に日に打ち寄せる波が 岸辺を崩すように

中島みゆき「吹雪」1988.11.16

過ちを忘れてしまう人間たちにより、吹雪は強まり、闇が深まり日本はどこにも残らぬ島になるということなのでしょう。

被ばくの恐ろしさ

この曲の中のの形をした白いものは、降り積もる灰や雪、そしてそこに含まれる放射性物質を表現しています。

降り積もる白いものは 羽の形をしている
数えきれない数の   羽の形をしている
あまりにも多過ぎて やがて気にならなくなる

中島みゆき「吹雪」1988.11.16

吹雪を強め、闇を深めるのは、あやまちを忘れてしまう人間

核の災禍が生物に与えた影響をなかったものとして、また原子力発電所などというものを作ろうとしている。

そして、吹雪が強まり、闇が深まることで

その「恐ろしいもの」について、話すことも描くこともタブーとなっていく。

そして、そのタブーとしたものに、私たちは殺される。

というのが、「そこに描けないものが 君たちを殺すだろう」という意味なのだと思います。

恐ろしいものの形を ノートに描いてみなさい
そこに描けないものが 君たちを殺すだろう

中島みゆき「吹雪」1988.11.16

抵抗を継続することの難しさ

それでも、タブーとなる前に、人々も疑いを持ち権力に楯突く時期があります。

でも、年月とともに、その疑いは「あまりにも多過ぎて やがて気にならなくなる」、つまり、日常生活の中に埋もれてしまいます。

それでも抵抗を続ける人に対しては、日に日に打ち寄せる波が 岸辺を崩すように、皆が忘れていく・離れていくというダメージが加えられます。

そして、沈黙を待って、予定どおりに過ちがくりかえされていくのです。

疑うブームが過ぎて 楯突くブームが過ぎて
静かになる日が来たら 予定どおりに雪が降る

中島みゆき「吹雪」1988.11.16

いつかまた、原発では事故が起き、戦争では核が使われる。

その犠牲になる人の目印は見える場所にはなく、

他人ごとだと思って沈黙していれば、自分や自分の大切な人が間引かれる子になるかもしれない。

間引かれる子の目印 気付かれる場所にはない

中島みゆき「吹雪」1988.11.16

1986年チェルノービ原発事故

この曲が発表される2年半前、1986年4月26日にソビエト連邦(現在のウクライナ)のチェルノービ原発(チェルノブイリ原発)で炉心爆発の事故がありました。

当時、日本は原発建設ラッシュの最中でしたが、「ソ連だからあんなひどい事故が起きるんだ」という説明がされていました。

年老いた者たちは権力を表しているのではないかと思います。

奴らの「どこから来たか」という問いに答えたとしても、詭弁を弄されるだけで、教訓として使われることはない。

初めから無かったことにされるなら、答えるだけ無駄だと。

どこから来たかと訊くのは 年老いた者たち
どこにも残らぬ島なら 名前は言えない
誰も言えない
はじめから無かったことになるのだろう

中島みゆき「吹雪」1988.11.16

2011年フクシマ原発事故

そして、チェルノービ原発事故から23年後、2011年3月11日に福島第一原発が東日本大震災により、メルトダウンしました。

予定どおりに過ちがくりかえされたのです

原発事故後、避難されていた方たちの中には、差別を恐れて「どこから来たのか」を隠していた人もいました。(実際ひどい差別もありました)

そして、フクシマ原発事故から13年が経過しようとしている今、何もなかったかのように日本では「原子力発電所」の再稼働・新設が進められています。

また、年老いた者たちは、疑うブーム楯突くブームが過ぎるのを待っているのでしょう。

北国・雪国の吹雪(おまけ)

「吹雪」で画像検索をかけても、なかなか本当の吹雪の写真はありませんでした。

雪は横から吹き付け、地吹雪(じふぶき)になると下から吹き上げてきます。

暗闇でも、灯りがあれば、乱反射して真っ白になります。

一寸先も見えないホワイトアウトの状態で、風にあおられて方向感覚を失います。

暗闇(ブラックアウト)と同じか、それ以上に、吹雪によるホワイトアウトは恐ろしいものがあります。

吹雪はこちらのアルバムに収録されています。



コメント

タイトルとURLをコピーしました